植物を育てている以上、虫はつきものです。虫が食べに来るのも当然自然の中での当たり前の営み。
でも、だからと言って農薬は使いたくないと思う方もたくさんいると思います。
虫と付き合っていく覚悟みたいなものも無農薬で育てるには必要だという気持ちもあると思います。
でも、食べるために栽培している場合は特に放っておくわけにはいかないですよね。
そこで、農薬の代替になる自然になるべく負担をかけないための害虫対策溶液をまとめておきたいと思います。ただ、絶対的な効果が期待できるとは限らないということ、失敗もあるということを意識しておくことも大切です。
作りやすい手軽な自然農薬は何?
ずぼらとまでは言いたくないですが、あまりにめんどくさいのもいや。
生きていく営みに直結している植物を育てるということ。
これが日常的な日々の活動のひとつであれば、手軽に作れる方法を知っておきたいと思うはず。
必要最低限の手間で用意できる効果的な害虫対策溶液をリストアップします。作り置きもできて、希釈するタイプのものやそのまま使えるものまで。比較的手に入れやすい素材をピックアップしました。病気に有効なタイプと害虫に有効なタイプ、相乗効果を発揮するものもあるのでチェックしてみてください。
パーソナルで小さな家庭菜園向きの初級編です。
手に入りやすい素材一覧
※クリックすると確認できます。
成分の基本の抽出方法
植物を素材とする場合には成分を抽出して使う必要があります。また、それぞれの素材は別々に抽出して、使うときに混ぜる方が成分の変化も抑制できます。(※例外はあります。)使うときは希釈して、霧吹きなどで散布するのが原則です。始めのうちは希釈倍率を高めて使うという意識で行うと失敗が少なくてすみます。少しづつ様子を見ながらを心がけて。
アルコール抽出
ハーブ類など、揮発成分(精油成分:テルペン類)を取り出したいときは特にアルコール抽出が良いです。腐らないので長く作り置きできるのも重宝します。また、植物に含まれる殺菌成分として期待できるものはアルカロイドというものに分類され、アルコールに溶けやすい性質があります。また、アルコール自体に殺菌作用があるのでより効果が高まると言えます。
準備するものと作りやすい分量
アルコール:
| ホワイトリカーや焼酎など。100ml~300ml |
保存容器:
| 保存容器は広口の瓶で遮光性のものが良いです。 |
素材:
| 適宜選んで用意してください。15g~50g程度 |
| ※素材の分量はある程度アバウトでも問題ないですが、アルコールの量に対して素材の量があまりに少ないと抽出する成分も弱くなります。 |
保存ビンにアルコールを注ぎ、選んだ素材を漬け込みます。効果が期待できる状態になるには1か月程度~が目安です。
ラベルなどを貼って、直射日光の当たらない場所で保存します。アルコールは腐敗しないので、長期間の保存が可能です。
※使うときの注意としては必ず希釈します。そのまま使うと葉が縮れたり枯れたりするので気を付けます。また、連続で使用するのも避け、間隔をあけて使うようにします。希釈目安は500倍~800倍。様子を見ながら初めのうちは800倍を目安にすると失敗しません。
酢酸抽出
酢で抽出する方法です。必要な成分(殺菌成分などのアルカロイド類)をしっかり取り出しながら、マイルドな使い心地が重宝します。特に冬場は酢酸抽出液の方が植物を傷めにくいと言えます。冬場に害虫に悩まされることはすくないと思いますが。過剰チッソを中和する働きや生育の活性効果も期待できる相乗効果が魅力です。
準備するものと作りやすい分量
酢酸:
| 普通の穀物酢、米酢。木酢液での抽出も。100ml~300ml |
保存容器:
| 保存容器は広口の瓶で遮光性のものが良いです。鉄製のものは鉄が溶けだす場合があるので使いません。 |
素材:
| 適宜選んで用意してください。15g~50g程度 |
| ※素材の分量はある程度アバウトでも問題ないですが、酢酸の量に対して素材の量があまりに少ないと抽出する成分も弱くなります。 |
保存ビンに酢を注ぎ入れて、選んだ素材を漬け込みます。使える状態になるのは1か月程度~です。
酢も腐らないので、長期間の保存が可能です。直射日光の当たらない場所でラベルなどを適宜貼り保存します。
※希釈倍率の目安は300倍~500倍。様子を見ながら散布します。
煮だし抽出
即席の自然農薬を手早く作りたいときに重宝します。ハーブ類などは抗菌作用の高いフラボノイドなどのフェノール類は水溶性のものが多いので、今すぐにでも対策をしたいときや、日常的な散布に適しています。水溶性のアミノ酸やミネラル類なども一緒に抽出できるので、微量元素の補給にもなり自然農薬としてだけでなく植物にとってのサプリメントのような効果も期待できます。
準備するものと作りやすい分量
鍋と水:
| 素材によっては鉄製が使えない場合があるので、鍋は土鍋かステンレスが汎用性があります。水は1000ml~5000ml程度。菜園の規模によります。 |
容器:
| 基本的に水やりの要領ですぐに使うので、冷めたらジョウロや水差しにいれます。 |
素材:
| 適宜選んで用意してください。30g~150g程度 |
| ※素材の分量はある程度アバウトでも問題ないですが、水の量に対して素材の量があまりに少ないと抽出する成分も弱くなります。特に葉物などのハーブ類は少なくなりがち。 |
鍋に湯を沸かして、素材を投入し30分~40分ほど弱火でゆっくり煮だします。
ある程度冷めてからガーゼやさらしで漉して、容器(ジョウロやみずさしなど)に移します。基本的に保存は期待できません。特に夏場は腐りやすいので使い切るようにします。
※腐ってしまった場合は使わずに廃棄処分してください。基本的に、今すぐに使いたい時に使う分だけ作って使い切るようにします。希釈せずに水やりの感覚でOKですが、冷めてからつかいましょう。
抽出と希釈のポイント
抽出する際、素材によって刻んだりすりおろしたりするものはガーゼなどに包んで抽出を行うと効率的です。
煮だしや水だしよりも、酢抽出やアルコール抽出はより高い希釈倍率で薄めるのが安心です。また日常使いするつもりで作るのであれば、散布する際に、より薄く希釈して使うようにします。
また、ほとんどの素材はどの抽出方法でも効果は期待できるので煮だして日常使い、アルコール抽出でピンポイント使いなど工夫して、試しながら自然農薬づくりを行います。
手に入りやすい素材のリスト
主に害虫に効果が期待できるもの
トウガラシ、タイム、牛乳、クエン酸、海藻、ビール、コーヒー、米のとぎ汁
主に病気に効果が期待できるもの
ショウガ、ニンニク、サンショウ、酢、草木灰、重曹
トウガラシ
辛み成分のカプサイシンやサポニンに殺虫や忌避効果を期待できます。抗菌効果も高く、毒性も低いので使いやすいです。幅広い害虫に効果を期待できます。
生の唐辛子を使うならば、刻んで煮だした後にアルコールを少量加えて効果を高めます。ドライの唐辛子を使う場合は、アルコール抽出で行います。
アルコール抽出は500倍に希釈。特に日常使いならば1000倍で。
※サポニンはアルカロイド類なのでアルコールや酢に溶けやすい。
ショウガ
ショウガに含まれるテルペン類には抗菌作用が高い成分が多く含まれています。うどん粉病にも効果を期待できます。テルペン類はアルコールに溶けやすいのでアルコール抽出が適しています。スライスして使うと効率的に抽出できます。
アルコール抽出は500倍~1000が希釈目安。
※ミョウガも同様に効果的です。
サンショウ
スパイスとして使われるサンショウも強力な抗菌作用や殺虫作用が期待できるとされています。フェノール類が多く含まれるので、煮だして使うと良いです。
アルコール抽出や酢抽出の場合は。800倍~1000倍が希釈目安。
ニンニク
すりおろしたり潰したりすると酵素が働き硫黄化合物であるアリシンに変化して強烈な匂いを発生させます。このアリシンが病気に効果を発揮します。
うどん粉病、さび病、モザイク病、ベト病など、一般的に悩まされがちな多くの病気に効果があると言えます。匂いは忌避効果も期待できます。
酢抽出やアルコール抽出が適しています。抽出する際にはガーゼなどに包んで漬け込むと手間が省けます。
アルコールや酢抽出なら500倍~800倍に希釈します。
※ネギやノビルなども同様な効果を期待できます。
タイム(ハーブ類)
タイムは抗菌作用がずば抜けて高いハーブです。栽培も容易でメジャーなハーブなのでピックアップしました。
煮出しでフェノール類を抽出してマイルドな使い心地を期待できます。日常使いにも適していると言えます。
害虫忌避効果としては特に、モンシロチョウに特に効果的と言われています。その他にもハーブ類は忌避効果が高いものが多いので重宝します。
アルコール抽出なら500~800倍に希釈します。
※ハーブは幅広く抗菌効果が期待できるものが多くあります。ローズマリーやエルダー、セイジ、ミントなど。
※セントジョンズワート、シソなどは殺菌、殺虫効果が期待できるアルカロイド類をアルコール抽出できます。
草木灰
無農薬栽培において常備しておきたい一般的なものです。カリを補給できる有機肥料や土壌改良にも使われる草木灰には病原菌の撃退にも効果があります。特にうどん粉病などのアルカリ性に弱い菌類に効果を発揮します。
土壌に少量すきこんで使えば、青枯病や、立ち枯病、根こぶ病、トマト根腐れ病などにも有効です。
茎葉にまいたりしても病原菌の防除ができます。また、300倍~400倍ほどの水に薄めて1時間以上放置した後の上澄み液を散布すると効果がダイレクトに期待できるようです。サイフォンなどで抽出するか、コーヒー用フィルターなどで漉すといいです。
海藻
ミネラル類などの微量元素を補給してくれる肥料としてだけでなく、ヨードが含まれるので病気予防にも効果的です。また、海藻類に含まれるヨウ素をアブラムシやアリは嫌うので、害虫忌避効果も期待できます。煮だし抽出した海藻エキス(昆布水など)を希釈して葉面散布したり、もどした海藻を土に直接おいてアリ予防などに使います。主に予防策としてであり、死滅させる効果はありません。
海苔や昆布などは煮詰めてトロトロにしたものをさらしで漉してピンポイントで散布すると、アブラムシやハダニの気門を塞ぎ死滅させることができます。ミキサーにかけてから煮詰めると簡単に作ることができます。粘りが肝なので作成する場合もサラサラした状態ではなくドロドロになるまで煮詰めます。
散布するときの希釈目安は50倍くらいですが、濃くても害になるものでなく、むしろ栄養にさえなるので、適宜濃さを調節して対応します。
※寒天もテングサから作られたものなので気軽に利用できます。作る際も溶かすだけなので簡単です。牛乳などの動物性を避けたい場合は重宝します。
※生モノなので使い切るようにします。保存する場合は冷蔵庫などで。
コーヒー
コーヒーの散布はダニ類に効果があると言われています。普通に飲むときの要領で作って冷ましたものを散布します(より濃い方が効果が高いです)v。また、土に散布しておけばヨトウムシやセンチュウに対する忌避効果を得られます。豆からのドリップ式などで利用したカスなども土に混ぜ込んで使いましょう。ゆっくりと分解され肥料分としての役割も期待できます。
米のとぎ汁
米のとぎ汁には土壌の有用微生物を活性化させる効果があるので、植物の抵抗力を日頃から高めるサポートが期待できると言えます。
米のとぎ汁から乳酸菌エキスをつくることもできます。ビンにとぎ汁を入れて、塩と砂糖を入れてガーゼなどで口を閉じて放置(1週間~)して出来る液体がそれです。出来上がった乳酸菌エキスは強酸性なので葉面散布すると病原菌の静菌作用が期待できると言われています。300倍~500倍に薄めて使うのが目安です。
※乳酸菌エキスを作る際はとぎ汁は濃い方がいいので、一回目のとぎ汁を使います。塩や砂糖を入れなくても作れますが、とぎ汁500mlに対して、塩小さじ1、砂糖小さじ2程度を目安にしてください。
※ここで説明している乳酸菌エキスお米由来なので植物性乳酸菌と言えます。強酸性なのでいざというときに使う程度に留めます。梅雨前などに散布しておけば多くの病害虫の予防に役立つと言えます。
牛乳
アブラムシにピンポイントで効果があります。牛乳に含まれる油分が乾燥して被膜となりアブラムシ類を窒息死させると言われています。
そのままスプレーするか、少し希釈して使います。乾燥して放置すると匂いの発生と腐敗を呼んでしまうのでしっかりと洗い流します。石鹸を少量溶かして使うとより粘着しやすくなります。乾燥した晴れの日に使うようにします。
重曹
うどん粉病やさび病に効果的とされています。毒性のない自然農薬として重宝します。
1gに対して水で800倍~1000倍に希釈して使います。希釈倍率が低いと強いアルカリ性が菌だけでなく植物自体を枯らしてしまうこともあるので気を付けます。また、乾燥して白い結晶が葉に残った場合は葉焼けの原因になるのでしっかり洗い流します。
食酢
酢のそれ自体は、病気予防やハダニ類に効果的なので抽出液の基材としてだけでなくそのまま希釈して使うことでも効果があります。うどん粉病にも効果的とされているのでピンポイントでも散布にも重宝します。
土壌の余分なチッソ中和や、細胞の新陳代謝を促す効果が期待できます。至れり尽くせりな素材です。過剰な窒素分は害虫を引き寄せる原因になるので意識したい要素です。日射不足で元気がない時にも効果的に代謝を促してくれます。
ピンポイントで使いたい場合は200倍~500倍。日常的に気軽に使いたいならば、800倍~1000倍が希釈の目安です。
クエン酸
クエン酸の酸性質がダニやナメクジに効果的とされています。
他には卵の殻や有機石灰を入れて溶かし、クエン酸カルシウムを作って微量元素の補給に使うなどの有機栽培の手助けもしてくれます。植物の抵抗力を高めるために意識しておきたい要素です。
1g程度なら2リットルの水で2000倍を目安に希釈して使います。
ビール
ナメクジやカタツムリを捕獲するための餌になります。ナメクジはビールの匂いが大好と言われています。受け皿や小皿などに注いでおけば夜のうちに集まってくるので酔い潰れているナメクジを翌朝、捕獲します。
ナメクジが大量発生してしまう時期などは特に重宝します。
焼酎
素材の抽出に使う際の基材としてだけでなく、そのまま500倍~800倍に希釈して単一でも手軽に使えます。殺菌力も期待できるうえ、すぐに揮発するので使いやすいです。一時的な土壌消毒にもなります。
葉面散布すると浸透力も上がるので、素材のエキスを抽出するだけでなく、肥料を散布するときも少量混ぜると吸収率を上げることが期待できます。ホワイトリカーなどが使いやすく汎用性があると言えますね。
※使う際は早朝や夕方など、太陽の光が優しくなってきたころにします。揮発と同時に葉焼けを引き起こす原因にもなるからです。
常備しておくと心強い自然農薬
自然の力を利用して病気や害虫から大切な作物を守る際に、昔から使われてきた基材や、近年注目を浴びているものがあります。基本的な位置づけとして、いろいろな場所で、いろいろな方法や役割を期待されて使われています。化学農薬を使いたくないのであれば、最も基本的なものとして常備しておきたい存在と言えます。
自然農薬を使う際に心がけたいポイント
日頃から優しい基礎エキスを散布して、植物たちの抵抗力や活力を高めておき、いざ害虫が目に見えるほど発生してしまった場合や、病気が発生してしまった場合に防虫、殺菌の効果がより高いエキスを散布するような使い方が理想的です。
日常使いするのならば、緩やかな忌避効果と抵抗力向上や成長促進を狙って、ミネラルやアミノ酸を補給できるような優しいエキスが相乗効果もあるので効果的です。マイルドな煮だし抽出で抗菌作用のあるフェノール類(フラボノイドなど)を利用できる素材が良いですね。
具体的な基礎エキスや使い方を上げるとすれば、
- トウガラシやタイムなどの抗菌力のあるハーブ類を素材としたもの
- 1000倍希釈した酢
- 米のとぎ汁などで有用微生物の活性化を促進
- 素材を煮だし抽出したもの
- ニームオイル1000倍希釈液
- 海藻エキスの葉面散布
など。
病害虫が発生しやすい季節が到来したら、段階的にちょっと刺激が強い素材を選んで希釈倍率も低めで散布したりするとよいです。実際に病害虫が発生してしまったら、ピンポイントで使うようにします。効果が高く刺激が強いものは多用するのは避ける方が賢明と言えます。
具体的な病害虫予防エキスや使い方を上げるとすれば、
- ニンニクや生姜などの刺激が強めのスパイス類を素材としたもの
- 素材(特にニンニクやショウガなど)をアルコールや酢酸抽出したもの
- 重曹希釈液
- 植物エキス入り木酢液(ニンニクやトウガラシを木酢液で抽出)など
など。
自然農薬の世界は奥が深い世界です。その他にも多種多様な素材や使い方が提案されています。手に入りやすい素材をピックアップしましたが、参考にしながら試行錯誤してみて下さい。